学校に行かないのは、まだ受け止められる。でも一日中ゲームをして、勉強を一切しない。これはさすがにまずいのではないか。
不登校が数か月続くと、多くの親御さんがここで悩まれるのではないかと思います。
私は不登校だった1年間、勉強らしい勉強を1秒たりともしていません。通信簿は通年でオール1でした。その後、大学在学中に不登校関連のNPOで働いたり、不登校児の家庭教師をしたりと支援側にも回っています。両方の側から見た結論を書きます。
前提:順番を間違えると、勉強は絶対に始まりません
支援の現場でいちばん多かった失敗が、これでした。
心理的な回復より先に、学習を持ってきてしまう。
不登校の子は「勉強をしていない自分」を、親が思っている以上に強く意識しています。そこに勉強を差し出すと、それは学習の機会ではなく、自分の遅れを毎日確認させられる装置になってしまいます。
順番は決まっていると思います。
- 体調と生活の安定
- 心理的な回復(責められない時間の確保)
- 何かに能動的に触れている状態
- ここでようやく、勉強
3番までが整っていない段階で4番を持ち込むと、ほぼ失敗します。そして失敗すると、「やっぱり自分はだめだ」という確認が一つ増えるだけです。
やってはいけないこと
①「せめて勉強だけは」と言う
この言葉は、本人には「学校に行けない分は勉強で埋め合わせろ」と聞こえます。すでに引け目を感じている状態に、追加の負債を積む形になってしまいます。
② 学校と同じペースで、全教科をやらせる
これは物理的に無理だと思います。学校は1日6時間、教員が管理して、同級生という強制力がある環境でそれをやっているわけです。家で一人で同じことができるはずがありません。
無理な目標を立てて達成できないと、「自分は勉強もできない」という結論だけが残ります。
③ ゲームやマンガを取り上げる
私が不登校の1年間にやっていたのは、ゲームと漫画と映画です。ブックオフとゲオに入り浸り、腕が筋肉痛になるまで立ち読みしていました(笑)。
ただ、1日中やっていれば1か月もしないうちに飽きるんですよね。あまりに暇でPCで絵を描いたり、ゲームを買うお金欲しさにHPを作って今でいうアフィリエイトを始めてみたりもしました。当時は完全な暇つぶしで、何の役にも立たないと思っていましたが、実際にはそれがその後の仕事につながっています。
ゲームを取り上げると、能動的に何かに触れている唯一の接点が消えます。そこから何かが伸びる可能性ごと、消えてしまうと思います。
④ 勉強の話を、毎日する
毎日聞かれること自体がプレッシャーになります。週に一度でも多いくらいではないでしょうか。
やるべきこと
①「全部やる」を、最初に捨てる
不登校の期間中に学校のカリキュラムを全部追いかけるのは、私は不可能だと思っています。取捨選択が必須です。
残すべきものは、次の2つだけだと考えています。
- 算数・数学:積み上げ式なので、抜けると後から戻るコストが最も高い教科です
- 読書:まとまった量の文章から情報を取る力。これがないと、後で全教科が伸びません
中学生以上なら、これに英語が加わります。ほぼすべての大学入試で必要になるため、高校卒業後の選択肢の幅に直結するからです。
理科・社会・その他は、必要になったときに取り返せます。実際、私は高2の冬から始めて、3年かけて難関私立大学に届きました。詳しくは不登校の間にやるべき勉強は2つだけに書いています。
②「どこでつまずいたか」を先に把握する
これがいちばん重要な作業だと思います。
不登校の子の学習で最大の問題は、遅れていること自体ではなく、どこから分からなくなったのかが誰にも分かっていないことです。
私は高2の冬に大学受験を決めたとき、参考書を開いて数学IAが一行も分からないことに気づきました。結局、中学3年の教科書ガイドを買い直して、二次関数の意味を弟に教わっています。高2が中学生の弟に数学を教わるのは、率直に言ってプライドが折れます(笑)。
でも、ここを飛ばして高校範囲から始めていたら、絶対に間に合っていません。さかのぼるのは遠回りではなく、最短距離です。
③ 学年をさかのぼれる教材を使う
ここで問題になるのが、「戻る」ことの心理的な負担です。
中学2年生に小学5年生の問題集を渡すのは、本人にとってかなりきついことだと思います。塾に行けば周りに同学年の子がいますし、家庭教師ならその人には見られます。
この点で、学年の枠がないオンライン教材は構造的に有利だと思います。小4から高3までの全単元が同じ画面の中にあり、どこを見ているか誰にも分かりません。中学生が分数に戻ることも、高校生が中学英語に戻ることも、誰にも知られずにできます。
不登校の子の学習において、この「見られない」という条件は、教材の質と同じくらい重要だと思っています。
④ 1日5分から始める
いきなり1時間やらせないでください。
映像授業を1本見る。問題を3問解く。それだけでいいので、「今日できた」という事実を作ることを優先してください。
不登校の子に不足しているのは学習時間ではなく、成功体験のほうです。まずそこを埋めないと、量は増えないと思います。
⑤ 進捗を、評価しない
やった日に褒めるのは構いませんが、やらなかった日には触れないでください。
褒めることと責めることはセットで作用します。「やったら褒められる」は「やらなかったら失望される」と同義ですので、褒めすぎるとプレッシャーになります。
淡々と、続いていることだけを確認するくらいがちょうどいいのではないでしょうか。
「本人にやる気がない」わけではありません
支援に関わっていて、いちばん多かった誤解がこれです。
私は大学受験の浪人2年目に自宅浪人をして、生活リズムが崩れ、昼夜逆転し、1年を丸ごと失いました。18歳で、大学に行きたいという明確な意思を持った状態でさえ、自宅では自分を管理できなかったわけです。
3年目に予備校に通って合格しました。やったことは単純で、「いつ、どこで、何をやるか」を自分で決めるのをやめて、外側のルールに従っただけです。
つまり、意志の力で自分を管理できる人間なんて、ほとんどいないと思います。これは年齢や性格の問題ではなく、環境に強制力があるかどうかの問題です。
家で勉強しないのは、本人のやる気の問題ではなく、家に強制力がないからだと思います。だとすれば、対処すべきは気持ちではなく仕組みのほうです。
- 決まった時間に誰かと画面越しに会う(オンライン家庭教師など)
- 週に1回だけ外に出る場所を作る(塾、教育支援センター、フリースクール)
- 進捗が自動で記録される教材を使う
「いま勉強しないと手遅れ」ではありません
最後にこれを書いておきます。
私は中学3年をまるごと欠席して、内申はオール1でした。高2の冬に受験を決めたとき、模試は全科目偏差値30台、数学は0点です。そこから3年かけて難関私立大学に入りました。
もちろん時間はかかりました。2年遅れて社会に出ています。でも社会に出てしまえば誰も気にしません。就職の面接で浪人について突っ込まれたのは、一度だけでした。
必要になったとき、人は勉強します。 そのときに戻る土台さえ残っていれば、間に合うと思います。ですのでいま守るべきなのは、勉強の進度ではなく、勉強に戻れる状態のほうです。