先にお断りしておきますが、この記事は親御さんを責めるために書くものではありません。
私の両親は、不登校の1年間、最終的にほとんど何も言わなくなりました。当時の私はそれを「助かる」と思っていましたが、いま自分が二児の父になって考えると、あの沈黙は相当な我慢だったはずです。
ここに挙げるのは、悪気なく、むしろ心配や愛情から出る言葉ばかりです。ただ、受け取る側にはこう聞こえていた、という記録として読んでいただければと思います。
1.「なんで行けないの?」
どう聞こえるか
理由を答えられない自分を、毎回確認させられます。
私がいじめについて誰にも言わなかった理由は2つです。相談すること自体が恥ずかしかったこと。そして、親を悲しませたくなかったこと。「いじめられているのか?」と聞かれても、たぶん「いいえ」と答えたと思います。
理由を言わない子は、理由がないわけではありません。言えない理由があるか、自分でも言語化できていないかのどちらかです。
言い換えるなら
「話したくなったら聞くよ。急がなくていい」
これを一度伝えて、あとは聞かない。これがいちばん効くのではないかと思います。答えを求めない形にするのが大事です。
2.「その程度のことで」「みんな我慢してる」
どう聞こえるか
自分の感じている苦しさが、無効だと宣告されます。
私が受けていたのは、教科書を隠される、意味もなく怒鳴られる、たまに殴られる(痛くはない)、という程度のことでした。世間で報道されるいじめに比べれば、たいしたことがありません。当時の私自身がそう思っていましたし、あれから15年以上経っておじさんの感性を獲得した今も、「そんなことで……」と自分でも思います。
それでも当時は、毎日が本当に憂鬱だったんですよね。
子どもは客観的な被害の大きさで不登校になるわけではありません。傷の深さは、出来事の大きさではなく、その子の耐性と、逃げ場があるかどうかで決まります。
言い換えるなら
「そうか。しんどかったんだな」
評価を挟まないこと。それだけだと思います。
3.「明日は行けそう?」
どう聞こえるか
毎晩の宣告です。
「行く」と言えば翌朝プレッシャーになり、「行かない」と言えば親を失望させる。どちらを選んでも苦しいので、最終的には黙るか、嘘をつくことになります。
私は嘘をつくほうを選びました。「頭が痛い」「朝起きられない」と言いながら、共働きの両親が家を出るまで布団に包まっていたわけです。
言い換えるなら
聞かない、が答えだと思います。行ける日は、聞かなくても本人が動きます。
どうしても連絡の都合で確認が必要なら、学校側と「連絡がない日は欠席とみなす」というルールを作ってもらってください。多くの学校は応じてくれると思います。
4.「このままだと高校に行けないよ」
どう聞こえるか
すでに自分でいちばん怖がっていることを、目の前に出されます。
私も不登校をして数か月経った頃には、「もう今から頑張っても高校受験には間に合わない」と諦めの境地に至っていました。ここまで来ると、考えると不安になるだけなので、思考停止して現実逃避するしかなくなります。そこに将来の話を重ねられると、逃げ場がありません。
そしてこの言葉には、事実としての誤りもあります。不登校からの高校進学の選択肢は、実際にはかなりあります(不登校からの高校進学 5つの選択肢)。私は内申オール1・年間出席10日以下の状態から高校に進み、その後に難関私立大学へ行っています。
言い換えるなら
進路の話は、保護者の側で先に調べておいて、本人が動ける状態になってから出す。 これに尽きると思います。焦って前倒ししても、良いことは何もありません。
5.「ゲームばっかりして」
どう聞こえるか
いま能動的に触れられている唯一のものを、否定されます。
私が不登校の1年間にやっていたのは、ゲームと漫画と映画です。ブックオフとゲオに入り浸って腕が筋肉痛になるまで立ち読みし、午後のロードショーで週に何本も映画を観ていました。
ただ、1日中やっていれば1か月もしないうちに飽きるんですよね。あまりに暇でPCで絵を描いたり、ゲームを買うお金欲しさにHPを作って今でいうアフィリエイトを始めてみたりもしました。当時は完全な暇つぶしのつもりでしたが、結果的にこれがその後の人生でいちばん役に立っています。
不登校の期間が「空白」になるかどうかは、勉強していたかどうかでは決まりません。何かに触れていたかどうかで決まると思っています。
言い換えるなら
「それ、どういうゲームなの?」
内容に関心を持つ。これは実際にかなり効果があると思います。批判されない話題が家の中に一つできると、そこから会話が戻ることがあります。
ちなみに通信制高校に入って驚いたのですが、アニメ・漫画・ゲームへの許容度は非常に高い世界でした。というか、みんな不登校期間中にやっていることは大体同じなので、むしろ話の合う友達が多いくらいです。「うちの子アニメやゲームばかりで、高校で友達ができるか不安で……」というご相談を受けたこともあるのですが、その点は心配いらないと思います。
6.「お母さんが悪かったんだよね」
どう聞こえるか
意外に思われるかもしれませんが、この言葉もきついです。
親を苦しめているのは自分だ、という確認になるからです。自責の言葉は、子どもに「自分のせいで親が壊れている」という新しい罪悪感を渡してしまいます。
言い換えるなら
自責は、本人の前ではなく相談先で出してください。
- スクールカウンセラー(学校に配置されています。担任経由で予約できます)
- 自治体の教育支援センター(適応指導教室)
- 24時間子供SOSダイヤル:0120-0-78310(保護者も利用できます)
親の相談先の確保は、お子さんのためではなく保護者ご自身のために必要だと思っています。一人で抱えると、どこかで限界が来ます。そして限界は、たいてい子どもの前で出てしまいます。
7.「せめて勉強だけは」
どう聞こえるか
「学校に行けない分は、勉強で埋め合わせろ」と聞こえます。
すでに引け目を感じている状態に、追加の負債を積む形になります。この状態で始めた勉強は、学習の機会ではなく、遅れを毎日確認させられる装置になってしまいます。
言い換えるなら
この時期に必要な勉強は、実際には2つだけだと思います。算数・数学と、読書。この2つが残っていれば、他は必要になったときに取り返せます(不登校の間にやるべき勉強は2つだけ)。
「全部やらせる」を捨てると、言葉も自然に変わってくると思います。
では、何を言えばいいのか
正直に言うと、言葉より状態のほうが効くと思っています。
私の不登校が終わったのは、カウンセリングでも本人の努力でもなく、環境が変わったからでした。高校で、同級生のほぼ全員が不登校経験者で、中学時代の話をしないという暗黙のルールがある場所に移ったら、1〜2か月で普通に通えるようになりました。
ですので家の中でやるべきことは、説得ではないと思います。
- 家の中に、責められない時間を作る
- 本人が触れているものを、否定しない
- 進路の選択肢は、親が先に調べておく
- 親ご自身の相談先を、確保する
この4つです。言葉は、この状態ができたあとに自然に出てくるもので十分ではないでしょうか。
最後にひとつ。私は15年経ったいまも、親に不登校の理由を話していません。親も聞いてきません。
これは冷たい関係だからではなく、たぶんお互いにそれでいいと思っているからです。理由を聞き出せなかったことは、失敗ではありません。
中学の卒業式の日、職員室でのぼっちの卒業式に、両親はわざわざ正装して来てくれました。先生方が私ひとりのために嫌々合唱してくださった謎の時間は控えめに言っても地獄でしたが(笑)、あの日のことは今でもよく覚えています。